2020年11月30日 13:10

【ホンダ N-ONE 新型】『スーパーカブ』のように変わらない安心感を…エクステリアデザイナー[インタビュー]

新型ホンダ『N-ONE』は、『N360』をもとにしたタイムレスデザインを纏った先代のコンセプトを踏襲している。ここまで変わらないフルモデルチェンジは稀有だ。そこでなぜその路線になったのか、エクステリア担当デザイナーに話を聞いた。

◆本質的な“そのものらしさ”

先代N-ONEは、「クルマに名前を付けたり、レースをしたり、生活の道具というよりも行動を共にしたくなるような仲間のように広く受け入れられ、道具を超えた愛される存在になっている」とは、本田技術研究所 オートモービルセンターデザイン室 プロダクトデザインスタジオ研究員の田中丈久氏の弁。

そこでより末永く愛されるためにはどうするかを研究し見つけたものは、「時計やスニーカーなどの中には、移り変わる流行に左右されず、そういう安心感から世に溢れてきているものがある」という。また、「LEDの電球は最初、煌びやかなシャンデリアみたいなものに使われていたが、結局電球らしい形に戻ってきた。つまり、先進的な表現よりも、本質的な価値を表現したわかりやすい形が求められている」とし、「末永く愛されるものには、本質的な“そのものらしさ”が必要だ」と結論付けた。

そこで新型でも、「タイムレスデザインの継承と進化として、本質価値を磨き上げ、次の時代へつないでいける存在を目指そうと考えた」。その本質価値をN360から探ると、ホンダのMM(マンマキシム・メカミニマム)思想が挙がる。乗員の空間を大きく取り、機械を小さくする考えで、「大人4人の空間のために無駄を徹底的に削ぐという機能表現」だ。

次はくつろぎ安心で、「単に削ぐことでがらんとした楽しくない空間にするのではなく、ゆったりくつろいで移動出来る空間。高速においても安心して運転出来るしっかり感を表現」。最後は楽しさだ。「単純に運転が楽しい。ドライブが楽しくなるようなコクピット周りや、きびきび軽快に走れそうなスタンスを目指した」と説明し、これら3つの価値を“タイムレス価値”と定義し、「これを継承し時代進化させてデザインを進めた」と述べた。

◆やり直したエクステリアデザイン

さて、エクステリアデザインにおいてタイムレス価値はどう反映されたのか。担当の本田技術研究所 モーターサイクルデザイン開発室 プロダクトデザインスタジオアシスタント チーフエンジニアデザイナーの江田敏行氏は、MMは「人中心に作ったパッケージ。タイヤの位置やエンジンルームのサイズなどを最小限の線でつないだようにミニマルで表現したシルエット」。安心は、「進化した安全機能、予防安全、衝突安全をスマートに集約したデザイン」。楽しさは、「きびきびと軽快に走る楽しさを進化したシャーシのポテンシャルを感じさせるようなデザイン」と捉え、「これら本質価値をもとにスケッチを描きながら新しさを模索していった」と語る。

デザインを進め、1/1のコンセプトモデルを作るうちに、「シンプルにN-ONEらしさがちょっと足りないという話が出てきた」と江田氏。具体的に説明は難しいとしながらも、「N-ONEらしい優しさとか趣き、長く乗ることが出来、愛着が持てるデザインが少し足りない。そこでN-ONEとは、そしてN360とは何かという本質をもう一度考えることにした」と途中でデザインをやり直したことを明かす。

そこで再度本質価値を考えた江田氏達のチームは、N-ONEユーザーの声を聞くことで、「(N-ONEとは)使いやすさ、親しみ感、安心。それから流行に左右されないことが挙げられ、何よりもユーザーがN-ONEに愛着を持って接し、すごく気に入ってもらっていた」。そこで、「その気持ちにもっと寄り添った開発の姿があるのではないかと、ミニマル、乗る人のための形として、現行N-ONEのシルエットを継承することに決めた」と江田氏。その上で安心や楽しさを、「しっかりと機能進化で磨き上げ、初心に帰り、本当にお客様のためになるタイムレスデザイン、その継承と進化であると定めた」とキープコンセプトに至った経緯を語る。

その結果、「ミニマルにすることで本質と機能が際立つスタイルになった。またフロントは丸、リアは四角をより強調し、視認性を高めるという安全思想を持たせて進化させることで、シンプルでモダンに進化した新しいNアイコンが出来た」と述べた。

新型をフロントから見ると、「グリルのシルエットを先代よりもだいぶシンプルにし、ギュッと引き締めたフロントグリルと、そこに大きく光るヘッドライトが際立つスタイルにしている」。そして、グリル下部のバンパー内ロアグリルにセンシングのセンサーを搭載。その部分を、「よりクルマとしての土台がしっかりと見えるワイド感を表現したデザインにした」と説明。

リアは、リアコンビはフロント同様に、「配光をしっかり表現しつつ安全性の進化を表現し、四角いランプはきっちりと端まで四角く光るようにした」と江田氏。また、リアコンビ内にあったリフレクターをバンパー側に配置し、「クルマ全体での被視認性の良さをより表現している。それによってクルマとしても下側がしっかりするので、ワイド感も見せようと考えた」と説明した。

◆N-ONEは乗用車の元祖の志を持ったクルマ

江田氏には、より詳細にエクステリアデザインについてインタビューに答えてもらったので、その模様をお届けする。

----:初めに伺いたいのは、エクステリアデザインの担当を任命された時にどう感じたかです。他の車種とは違い、N-ONEはN360のモチーフを強く持っています。そのデザインを担当する気持ちをお伺いしたいのです。

江田敏行氏(以下敬称略):光栄だと思いました。ホンダは好きで入社しましたし、いまは二輪も担当しており、そちらも好き。ホンダの歴史そのものが僕は好きなのです。その中でN-ONEは乗用車の元祖の志を持ったクルマですから、それを新しくするのはすごくやりがいのある仕事です。また軽自動車はすごく身近ですし、日本で暮らしている自分としても、もともと好きでした。ですから小さいクルマで人の気持ちを考えながらデザインすることはすごく楽しいと思っていました。自分としてもやって良かったと思っています。

もちろんスポーツカーはやりたいなという気持ちもありますが、どちらかというと人の道具、日常の生活に近いところの方にやりがいを感じます。人の暮らしをより良くしたいという思いがありました。

----:初めに会社からはどういった指示があったのでしょうか。

江田:実は初期の検討段階には最初は入っておらず、横目で見ながら他の機種をやっていました。その時のN-ONEの姿は、僕自身としては違うものではないかと感じていたのです。優しさとか趣き、隣にいる自分の相棒のような感じというのは、形でいうと少し丸みがあったり撫でてみたくなる感じ。遠目で見た時に愛らしかったり、シルエットが自分の中でバランスが良いと感じるなどの良いものが心に触れるのですね。

機能だけとかディメンションありきでやりきってしまうと、人の心に対してギスギスした部分が残ってしまうのは嫌だなという思いがありました。長持ちする商品は、そういったところの角が取れて初めて良く見えると思うのです。僕が感じるN-ONE、長く持ちたいクルマはそういうところが欲しいと思っていました。

----:それで結局リスタートしたのですね。

江田:もしかしたら、そのまま継続したとしても、軌道修正が入って結果的にいまの姿に近いものになった可能性はあると思います。

◆一番ベーシックで一番価値があるものが全部詰まっている

----:江田さんの中でN-ONEはどういうイメージのクルマなのでしょうか。

江田:ホンダの中で一番小さい乗用車として、一番光る存在です。色々なものが全部最小限に揃っていて、そのクルマを持っているだけで嬉しくなるような要素が全部詰まっている。一番ベーシックで一番価値があるものが全部詰まっているのがN-ONE。その凝縮感が嬉しいですね。それはまさにN360でもあります。このクルマが出た当時は小さいクルマですがすごく贅沢なものでした。しかしなんとか手が届く人がいっぱい日本に出て来て、カーライフのような文化がさらに広がっていったことを想像すると、その気持ちをつないでいけるというのはすごく面白いなと思っています。

----:一方で“デザイナー魂”的なところでは、キープコンセプトはやりたくないような気もするのですが。

江田:僕自身はそうでもないですね。良いものは変える必要がないという気持ちがありますので、良いものをベースにさらに良くしていくことが大事です。ですからもとがなんだかわからなくなってしまうのは、あまり良くない。文化は積み重ねの部分があります。もっともわざと壊して新しく出来る部分もあるにはありますが、積み重ねの部分は結構大事だと思っています。

もちろんキープコンセプトが本当に良いかどうかは徹底的に考えた上でないといけませんが、キープコンセプト自体はデザインの考え方のひとつとしてとても大事だと思っています。

----:その時に江田さんとして一番大事にしたことは何でしょう。

江田:N360が出た時の言葉として残っているもので、“誇りを持って乗れる小さいクルマ”ということです。小さいというのは弱者、弱く見られがちですが、そうではなく堂々として乗れる、高級車という意味ではなくプライドを持って、道具だったり相棒だったり、大事な暮らしの友としての存在になればいいということです。

小さいからといって安物に見えるクルマは絶対に良くないと思いますので、そのためにはヘッドライト、リアコンビなど色々なところでどうしてもお金をかけなければいけないところはかけさせてもらいました。

◆デザインを変えずに「スタンス」を変える

----:今回フロントバンパーの黒い部分を幅広にすることでスタンスを良く見せていますが、これはなぜですか。

江田:先代のN-ONEはコロンとしていましたので、スタンスは今回の方がよりしっかりと見せています。先代は動態として考えると、もう少ししっかりと根を張ったスタンスである方が望ましいと考えていましたので、その気持ちを今回盛り込みました。フロントの黒いバンパーロアにはホンダセンシングのセンサーなどの機能が入りますので、その部分を活用してやるべきと判断したのです。

----:先代のN-ONEから今回のN-ONEに進化をさせる上で、一番変えたところはどこですか。

江田:やはりスタンスです。タイヤの位置は一緒ですが、全体的にしっかりと見えるようにタイヤを配して、塊がそのタイヤに向かって荷重がかかっているようなボリュームの持たせ方にするために、ノーズの張りを強くしています。具体的には先代N-ONEのヘッドライト部分は上向きでグリルも“つるん”と上を向いている感じ、いわば大福が“ぽちょん”と置いてある感じなのですね。そこをよりクルマとして走りがしっかりして、安全性もちゃんと担保出来ていることを表現するために起こし気味にしています。その結果、より前進するという印象を少しでも出したい。そのスタンスを一番大事にしています。

----:サイドのシルエットで見ると先端部分が起き気味(立ち気味)になっているということですね。

江田:そうです。

----:ではリアはいかがですか。

江田:テールゲート自体は同じシルエットですが、フロントが起きたことでトータルのバランスで、より前進感を表現するように見せています。フロントのボリュームに比べてリアはバンパーやリアビュー全体を、タイヤの後ろのところなどを削ることで、軽く見せています。これはリアクォーターなどから見るとリアの下端部分に重みを感じていたのです。そこで下のスカートの部分をギュッと削りました。その結果タイヤがより見え、スタンス良く見えるようになりました。

リアは軽快にして、フロントはノーズが立って見えるようにすることで、前方向に進むような勢いが出来ないかとデザインしました。ルーフも少し丸みを帯びたものではなく、フラットなシルエット、ローダウンのようなルーフにしています。その結果全体的に前進方向の勢いを感じさせました。全体を少し低めて前から後ろから見てもスタンスが良くなっているでしょう。

----:そういった細かい部分において、先代を踏襲しながら全体を見せているということですね。

江田:そうです。ルーフも先代の途中で追加したローダウンルーフを使っていますし、ボンネットは少し膨らみがあるタイプですが、これも歩行者保護の要件を満たす空間を取ったものを先代の途中で採用しておりそれを使っています。鉄板で出来ている表面のパネル部分も全部そのままキャリーオーバーし、基本的にはその形を使って、ボディとのつなぎを作り直しているのです。

----:因みに表面のパネルで変えているところはどこですか。

江田:スチールパネルで変えているところはありません。その代わり、樹脂部分のバンパーやガーニッシュ類などの部分はほとんど変わっています。

----:フルモデルチェンジでここまでキャリーオーバーするのは珍しいですね。

江田:多分初めてのやり方だと思います。ホンダでいうと『スーパーカブ』は使い勝手を考えるとあのシルエットしかないでしょうし、あえて変えないことで安心して選べるプロダクトになっています。N-ONEもスーパーカブと同じようにお客様に長く愛されるものになってほしいですね。

記事提供:レスポンス

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