2020年03月26日 06:15

ジュネーブモーターショー 幻の出展車…コンセプトカー&エキセントリックカー

2000年代からジュネーブモーターショーを飾った出展車を振り返るこのコーナー。第2回は、今でも記憶に残る意欲的なコンセプトカーやエキセントリックなモデルを収集した。

◆DCデザイン『ガイア』(2003年)、『ゴー』(2004年)

「DCデザイン」は、インドのムンバイを本拠とするデザインハウス。1995年に最初の“国際級プロトタイプ”を制作している。主宰しているのは、アートセンター・カレッジ・オブ・デザインで学び、ゼネラルモータースでデザイナー経験があるインド人、ドリップ・チャーブリアである。

2003年の『ガイア』はラクジュアリー感覚漂うクーペだが、ベースは三菱『ランサー』であった。翌2004年の『ゴー(Go)』は、チューブラーフレームにボディパネルを被せたもので、パワーユニットは英国の少量生産メーカー「ノーブル」製2座スポーツカー『M12 GTR3』のものを用いている。

DCデザインはドリップの子息で出版社勤務だったボニートも参画。現在はキャンピングカーを含むカスタマイジングやコーチビルド活動を展開している。

◆大野カークラフト『NAOMI IV』(2003年)

「大野カークラフト」は、元・日本オートモービルカレッジ主任講師の大野俊彦が主宰するカスタマイズ工房。2000年に『NAOMI I』でジュネーブ出展を開始。2003年にはその集大成として『NAOMI IV』を展示した。ベースはメルセデスベンツ『SL』。同車はロビー展示の形であったが、プレスセンター前という、プロフェッショナルの注目を惹く絶好のポジションであった。

なお、大野のジュネーブ出展はこの年が最後となるが、後年は自身のスクールを開校したり、東京オートサロン展示やフィリピンモーターショーの招待出展など、活動を継続している。

◆フィオラヴァンティ『カイト』(2004年)、『ターリア』(2007年)、『LF1』(2009年)

「フィオラヴァンティ」は、ピニンファリーナ在籍時代に30ものフェラーリのデザイン開発に携わったレオナルド・フィオラヴァンティが1991年に開設したデザイン会社。

2004年『カイト』は、巨大なグラスエリアにより、クローズドルーフでもオープン感覚が最大限に楽しめることを試みた。2007年『ターリア』は新時代の燃料電池車を想定した。2009年『LF1』は、空力を洗練させるとともに、高度になりすぎたF1マシーンへのアンチテーゼとして、18インチ・タイヤの採用などを提案した。

フィオラヴァンティはLF1をもってジュネーブ出展にビリオドを打ったが、さまざまなパテント取得や、主要自動車メーカーへのデザイン提供・コンサルティングを行って現在に至っている。

◆ユリエーズ『マカレナ』(2006年)

フランスのコーチビルダー「ユリエーズ」が、自社のクーペカブリオレ設計技術を誇示すべく、プジョー『407』に開閉式メタルトップ「リトラクトップ」を与えたのが『マカレナ』。ルーフ部分はすべて透明であった。

ユリエーズは1920年創立の歴史あるフランスのカロシエ。自動車業界における開閉式メタルトップのパイオニアであった。2000年代には、その技術供与や受託生産によって社業は大きく発展した。しかしその後、メーカーのニッチ車種削減によって経営危機に陥り、2013年に93年の歴史に幕を閉じている。

いっぽうで1980年に分離されたバス車体製造部門「ユリエーズ・ビュス」はルノーと協業のあと、2011年からフィアット・インダストリアル社(現CNHインダストリアルズ)の傘下となり存続している。

マカレナは2012年、ユリエーズが歴代プロトタイプをアールキュリエル社オークションで放出した際、2万5019ユーロで落札されて新オーナーの手に渡った。

◆トゥリング・スーペルレッジェーラ『グンパート・トルナンテ』(2011年)

旧来の「トゥリング・スーペルレッジェーラ」は、1926年から1966年まで存続したイタリアのカロッツェリア。今日存在するのは、2006年に商標を取得したオランダ企業によって再興されたものである。これまで数々試みられてきた往年のカロッツェリア復活プロジェクトとしては、存続している珍しい例といえる。なお、このオランダ企業は、同じ年に往年のホイール製造業者「ボラーニ」も傘下に収めている。

『グンパート(グンペルト)・トルナンテ』は、2004年にドイツで設立されたグンパート社製スーパースポーツカーをベースとしている。スーペルレッジェーラ(イタリア語で超軽量の意味)工法の伝統を継承するスペースフレームを、カーボンモノコックと組み合わせ、その上に複合素材のパネルを組み合わせている。古典的作風を色濃く再現したモデルが多い新生トゥリング・スーペルレッジェーラだが、この作品においては、珍しくモダーンなデザインを試みている。エンジンはアウディのV8ツインターボ。

2015年発売に向けて生産化が進められたが、クンパート社が2013年に倒産したことでプロジェクトは中断した。なお、クンパート社は2016年に香港系投資ファンドに売却され、1モデル名に由来する「アポロ・オートモビル」と名称を変えて現在に至っている。

◆アッカ・テクノロジーズ『リンク&ゴー』(2013年)

「アッカ・テクノロジーズ」は、ブリュッセルを本拠とする技術コンサルタント企業。『リンク&ゴー』は、都市向け自律&マニュアル運転EVコンセプトカーで、公称の航続は200kmである。

今日、さまざまな自動運転ショーカーで、リビングルーム風スタイルやジェスチャー・コントロールが主流になりつつあるが、リンク&ゴーは、それらをいち早く形にした1台であった。ロボティック・アームにより、車両を降りることなくチャージングステーションに自動コネクトするアイディアも提案されていた。

なお、このアッカ・テクノロジーズのイタリア法人は、倒産したカロッツェリア「ベルトーネ」の自動車分野における商標使用権を2016年に取得したが、早くも2019年に英国の「フライモービル・ホールディング」社に売却している。

◆イードン・グリーン『ブラック・クイリン』(2017年)

「イードン・グリーン」は、英国の実業家フェリックス・イートンが設立したスタートアップ工房。『ブラック・クイリン』は、アガサ・クリスティの小説に登場する架空の人物アーサー・ヘイスティングスが乗る1930年代の自動車にインスパイアされたという。いっぽう制作にあたっての具体的なモティーフは、第二次世界大戦直前のアルファロメオ『8C 2900』だった。エンジンはV型12気筒であることのみアナウンスされた。Black Cuillinとはスコットランドのスカイ島にある山に名前に由来する。

◆IEDトリノ・チシタリア『202スポルト』(2002年)、アルファロメオ『グロリア』(2013年)、『トレイシー』(2020年)

イタリアのデザインスクール「IEDトリノ」のトランスポーテーション学科は、18年の歴史をもつ自動車デザイナー養成コースである。ヨーロッパの自動車メーカーで実績がある講師を客員教授として招いたり、継続的に主要メーカーやカロッツェリアと共同プロジェクトを行うことで知られている。

ジュネーブモーターショーでは、2年制マスターコースの1/4スケール修了作品のなかから、最も優秀な作品を1/1スケール・モデルで毎年実現してきた。

2002年チシタリア『202E』は、台湾の学生チン・スーアンのアイディアをフルスケールにしたもの。第二次世界大戦直後の象徴的イタリア車であるチシタリア『202』を今日風に解釈した。オリジナルのアイコンであるフロントフェンダーのポートホール(穴)も再現されている。V8エンジンによるRWDが、4270mmという短い全長による機敏な操縦性を目指した。ピニンファリーナとマセラティのデザイナーが指導にあたった。

2013年の4ドアクーペ、アルファロメオ『グロリア』は、「米国およびアジア市場に通用するベルリーナ(セダン)」というアルファロメオ・スタイリングセンターの課題に基づいて制作された。V6もしくはV8ツインターボ搭載のRWDを想定している。フロントフードには、アルファロメオ・レーシングチームの伝統的シンボルである四葉のクローバーをエンボス加工した革製ベルトが走る。この作品は、アルファロメオの米国市場復帰前の、ブランドにとっていわば高揚感溢れる時期だったこともあり、学生のプロポーザルにもかかわらず異例の大きな扱いで欧米メディアによって紹介された。

実はIEDは、ジュネーブモーターショー2020に向けてもEVコンセプト『トレイシー』を準備していた。個人用・公共用双方に使用可能な6人乗りオン/オフロードカーだった。インド/中国/台湾/イタリアから集結した学生21名の力作だった。彼らの無念が偲ばれる。

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