2020年08月13日 06:30

【日産 キックス 新型】前後とも同じデザインテーマを追求…チーフデザイナー

日産から登場したSUV『キックス』。2016年に海外で発売されたクルマをベースに、よりプレミアム感を重視してデザインされたという。そこで、具体的にどのようなポイントを変更したのか。チーフデザイナーに話を聞いた。

◆カジュアルできびきび感にプレミアム感も付加して

このキックスのデザインコンセプトはどういうものか。2016年にグローバルで出したキックスは、「新興国に出すとこともあり、名前の由来通りスニーカー的な、非常にカジュアルで軽快できびきび走るイメージを形にしたのがデザインコンセプトだ」とは日産グローバルデザイン本部プログラムデザインダイレクターの入江慎一郎さんの弁。

しかしそれだけでは日本のユーザーの満足度を得られないことから、「付加価値としてプレミアム感をつけ加え、ひとつ上のクラスのコンパクトSUVを目指した」という。

その多くはフロントで表現されている。入江さんによると、「海外向けのキックスは割と口元のグリルが小さく、どちらかというとおちょぼ口なデザインで、軽快さをダイレクトに表現した結果だ」。一方、日本デビューのキックスはもう少しプレミアムにしなければならないので、「グリルは立派でよりワイドにも見せたい。そこで顔全体により高級感を出す手法を色々入れていった」と述べる。

例えば、「グリルの開口は横方向に200mmくらい広げ、日産の特徴的なシグネチャーであるVモーションも、通常のものにもう一本加えることで、より繊細かつ高級に見えるアクセントとしてメッキのダブルVモーションを採用」。

さらにグリルは組木をイメージしてデザインされた。「日産は日本のブランドであり、Japanese DNA、日本のモチーフをクルマのデザインに活かせないかという研究をしている。それは単純に様々なモチーフをそのまま写し込むのではなく、一度解釈しアジャストした上でデザインの要素、テイストとして織り込んでいく」と述べ、そうすることで、「日本の背景(環境)には日本のモチーフを合わせた方がよりマッチするだろう。そういう思いでグリルのパターンをどこからインスパイアしようかを考えた結果、組木的な構造物からインスパイアしてデザインしていった」と説明。

しかも、単に組木的なモチーフではなくグラデーションのような仕上げをしている。「開発する中で一個一個の立体表現が強すぎると違和感が出てしまった。ただでさえグリルは巨大な面積を持っており、あまりにも内側の立体表現を強くしすぎると、見る人によって抵抗感を覚えてしまう。その表現の絶妙なバランスに苦労した」と入江さん。

さらにVモーションの表現自体もかなりこだわった。「最初は内側の線が太く、その一本でデザインしていた。2016年のキックスはフードの中から骨がむき出しになってくるイメージでVモーションが存在していた」と説明し、そのまま日本向けにすると、「グリルの開口の中にメッキが存在するので、どうしてもシャイなモチーフになってしまう」。

そこで、「出来ればグリルの開口の外側に(Vモーションのラインを)持って行きたい。そうするとグリルの中が真っ黒になってしまうのでそこにもアクセントが欲しい。さらにダブルVモーションであればVモーションをさらに進化した形でプレミアム感も演出出来る」との考えから、「元々あった位置くらいのところに、細い繊細なメッキを施し、外側にランプからつながるVモーションの太いメッキを入れた」と詳細を説明。

さらに、「外側のVモーションの入れ方は先日発表した『アリア』や、これから日産が出していくクルマ達とバランスをとっており、この後につながっていく」とこのモチーフが今後の日産車に使われていくことを明らかにした。

◆リア周りでスポーティ感を演出

さて、コンパクトSUVであればプレミアム感や高い質感とともにスポーティ感も欲しくなる。そのあたりは「サイドのグラフィックとスタンスの良さで表現した」と入江さん。

特に、「リアのドアハンドルあたりからキャビンを急激に絞り込む一方、リアフェンダーのボリュームを思い切り外に出した。そのフェンダーのボリュームでスタンスも良さを見せている」という。

しかし室内の広さに影響はないのか。「室内は結構広くてヘッドクリアランスとニールームの寸法はかなり確保されている。座ってみるとサイドガラスは若干迫ってくるかもしれないが、他でカバーしているぶん、広さ感は保ちながらスポーティ表現、エクステリアデザインで大事なボリューム感を造り込んだ」とのことだった。

またショルダーラインとともにドアハンドルのところにあるメインのキャラクターラインもスポーティさを感じさせる。

入江さんは、「(メインのキャラクターラインは)クルマ全体の動き、特にサイドビューの勢いを演出しながら、その上の面の抑揚をコントロールしている。そこに一度影を入れてギャップを作ることで、如何様にでも面の角度を変えられるのだ。これがないといきなりショルダーから凸面でキャラクターラインに向かっていくので豊かな面構成が出来にくくなるのでそれを補助する意味も含まれている」と述べる。

◆こだわりのヘッドライト

入江さんがこのキックスのエクステリアデザインで最もこだわったのはどこか。

「それはヘッドライトだ。LEDを採用し2016年に出したクルマの半分くらいの薄型になった。その結果、見た目にもハイテクな感じを表現している」と話す。また、「精悍でハンサムな顔つきにしたかった」ことも薄型を目指した理由だ。「これはバルブ仕様を持たないことで実現。企画と相当すったもんだしたが、こういう目つきが絶対に良いからと通した」とこだわりを語る。

ヘッドライトといえば、日産デザインの特徴のひとつとして眉毛のようなシグネチャーランプを施しているクルマが多くある。「薄型にすることでパッと見にはそれが得られなくなったが、ヘッドライトが全部点灯するとそのシグネチャーのモーションになるのが特徴だ。それもLEDを全車標準にしたからこそ出来るもので、機能とデザインが一体になって上手くいった処理のひとつだ」。そして、「これもこの後に出てくるクルマ達にも施しており、夜でもはっきりと日産車だとわかるようになっている」とコメントした。

◆あっさり“させない”リアビュー

リアビューにもこだわりがある。入江さんは、「日産車に限らず、どのクルマを見てもリアビューは割とあっさりしている。フロントは顔が大事ということや、ボリューム的に立体表現させやすいこともあり結構頑張るのだが、リアは様々な要素もあり割とあっさりしがちだ」と現状を説明した上で、このキックスは、「相当頑張って立体的な表現、塊感を出すことにこだわった」という。

そのひとつが大胆な造形のリアウインドウだ。そしてもうひとつ、テールゲートの形状も特徴的だ。「パーティングラインがヘキサゴン、六角形になっている。これは遊び心とともに、単純にパーティングラインをまっすぐ落としていくと立体の補助にならない。せっかく3ディメンショナルに色々と凸凹させているのに、それが直線のパーティングライン一本で相殺されてしまう」とその意図を説明する。

またリアコンビも、「2016年の方はすごく立体的なリアコンビだったが、今回は周りの面に溶け込ませている。このクルマのグラフィックスは結構特徴的なので、凹凸感はリアコンビの中では出さないように、LEDを使って奥行きを薄くすることにした」と入江氏。さらに、「プレミアムのクルマが良く使う手法で、インナーレンズはアクリルの無垢で出来ている。その結果、キラキラ感みたいな光り方にこだわってデザインした」と話す。

海外でのキックスのリアバンパー下側は真っ黒であるが、日本仕様は黒の部分をボディーカラーでサンドイッチしている。「そこにあえてボディーカラーを取り入れ、その面積を増やすことで、プレミアム感や上質な感じを演出している」と入江さん。

一方でSUV的なテイストを感じさせようとすると黒のみの考え方もある。「一度真っ黒のバージョンも作り比較したが、ボディーカラーの方が充実感があり、かつ実際日本市場ではそうそう悪路を走るシチュエーションはないだろう。もちろんイメージとしてリアルなSUVという造形でデザインはしていくが、ここがボディーカラーの方がより充実感が得られる」と語る。

なぜそこまでリアデザインにこだわるのか。「こういったコンパクトなクルマはパーツパーツで見るよりも、全体の塊感で見られることが多い。つまり普通、車の前と後ろは同時に見ないが、コンパクトであればあるほどクルマ一個として見ることになる。そこで、フロントもリアも同じような塊感で存在する方がより強いクルマのデザインに見えるだろう」と持論を展開する。

そうすることで、「性格も含めて、キャラクターがよりはっきりとお客様に伝わるのではないかと考え、フロントとリアを切り分けるというよりも、ボディーサイドも含めてオールラウンド、同じようなテーマで追求したのがキックスのデザインだ」とした。

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