2021年05月14日 13:25

【ヤマハ MT-09 新型】五感に訴える“暴れ馬”、開発テーマは「トルク&アジャイル+フィール」

2020年10月、ヤマハ発動機は初のフルモデルチェンジを果たした新型『MT-09』を欧州で発表した。より先鋭的な佇まいにデザインは一新され、排気量が845ccから889ccにアップ、『YZF-R1』にも採用される最新電子制御を搭載するなど、解禁された情報の数々は日本でも大きな注目を集めている。

国内販売を待ちわびる声が高まる中、3代目となるMT-09欧州仕様の開発チームに話を伺った。連載インタビューの第1回目は、プロジェクトリーダーの北村悠氏を筆頭に5名の開発者から新型MT-09の開発コンセプト、進化のポイントを聞く。

【インタビュー参加メンバー】

PF車両ユニット PF車両開発総括部 SV開発部 SP設計 グループプロジェクトリーダー主査の北村悠氏:ヤマハ発動機に入社後、主にASEAN向けモペットやASEANとインド向け『YZF-R15』、『ヴィクシオンR』の車体設計を担当した後、MT-09の開発プロジェクトリーダーを担当。

PF車両ユニット PF車両開発総括部 SV開発部 SP設計グループ 主事の田中友基氏:車体設計担当。これまで開発に携わった車両はMT-25、YZF-R25、YZF-R6、YZF-R1など。

パワートレインユニットPT開発統括部 第3PT開発部 サウンド技術グループ主査の濱田大資氏:サウンド技術担当。これまで開発に携わった車両は『FZ8』、初代MT-09など。

PF車両ユニット 電子技術統括部 電子システム開発部 プロジェクトチーム 主事の八木俊紀氏:電装設計チーフ。これまで担当した車両は『MT-10』、『ナイケン』、『YZF-R25』など。

PF車両ユニット PF車両開発統括部 車両実験部 プロジェクトチーム主事の山田心地氏:車両実験プロジェクトチーフ。これまで担当した車両は2代目MT-09、MT-09 SP、MT-10 SPなど。

◆開発テーマは「トルク&アジャイル+フィール」

----:まずあらためて、プロジェクトリーダーにMT-09の基本コンセプトから伺いたいのですが。

プロジェクトリーダーの北村悠氏(以下敬称略):ヤマハはMTシリーズのブランドスローガンに「マスター・オブ・トルク」を掲げていますが、MT-09としては、初代から一環して「トルク&アジャイル」をコンセプトに置いています。欧州でMT-09の初代が立ち上がったのが2013年、マイナーチェンジの2代目が2017年で、今回が3代目となりますが、その間にMTシリーズの欧州ラインナップは、MT-09、MT-07、MT-10、MT03、MT125と拡充していった中で、MT-09に関しては強大なトルクを味わうことと、アジャイルな走りを楽しめることを狙いとして開発を進めてきました。

今回のフルモデルチェンジでは、「トルク&アジャイル」をより高次元で感じられるように、「トルク&アジャイル+フィール」を開発テーマに掲げ、ライダーの五感に訴えることを意識しています。もともとヤマハには「人機官能」というキーワードがありまして、人と機械を高い次元で一体化させて、ライダーの喜びや興奮を作り出す開発思想があるんですね。今回のMT-09はそこに踏み込んでいこうということで、サウンド、質感、操作性、デザインといったすべてにおいてオールニューで取り組んでいます。

また、3代目MT-09のコンセプトとしては「ロデオマスター」、つまり暴れ馬を乗りこなすイメージもあり、これは強大なエンジンパワーをねじ伏せたいという、オートバイに“操る楽しさ”と“刺激”を求めるお客様に向けたイメージです。

----:MTシリーズが拡充される中で、MT-09の立ち位置はどのように差別化を図っているのでしょうか。

北村:市場的なことを言うと、初代の頃からダウンサイジングトレンドがありまして、その傾向は年々拡大しています。なので1000ccクラスよりもとっつきやすさを求めて、MT-09をお求めいただくお客様の層があります。またMT-07ですと、特に欧州は二輪免許取得後の2年間は最高出力規制があり、ある程度コミューティング要素を求めたり、小排気量モデルからステップアップしたビギナー層が含まれる。その中でMT-09の立ち位置は、モーターサイクル経験の豊富なベテランライダー層がメインターゲットですので、よりファンライド要素が強いと言えますね。

コミューティング的な使われ方とファンライド的な使われ方、どちらにもニーズがありますが、MTシリーズではそのバランスが排気量帯によって少しずつ違っている。もちろん、ファン要素の強いMT-09でも日常域から楽しめるように、今回のモデルチェンジでは特に低中速域のトルクアップをしています。

◆凶暴なパワーを「楽しめる」電子制御

----:“暴れ馬”というMT-09のキーワードが出ましたが、暴れ馬的な楽しさとマイルドな走行感は、ある意味、相反するものですよね。

北村:もちろんそこは、街乗りで使う時は暴れ馬にならず、ワインディングなどに飛び出してスロットルを開ける時は凶暴なパワーを楽しめる作り込みを上手くするように(笑)。そのバランスを取るには電子制御の力が大きくて、エンジンでいうと、走行モード切り替えシステムの「D-MODE」には、いちばんダイレクトにMTらしさを味わえるモード1から始まる4つのモードがあり、モードごとの電子スロットルの開度特性や出力特性の変化によって使い分けができるようにしています。

サウンド開発担当の濱田大資氏(以下敬称略):そこまで車速を出さなくても暴れ馬的な雰囲気を感じられるよう、車体剛性を少し控えめにと言いますか、ちょっと車体が負けるような感じを出すことでエンジンの強さを強調するバランスの取り方は、開発の初期から話に出ていましたね。

車両実験担当の山田心地氏(以下敬称略):今回のフルモデルチェンジを国内仕様の現行モデルと比較すると、トルクの増大(8.9kgf・mから9.5kgf・m)などエンジン性能は上げながら、むしろ乗りやすくなったと感じていただけると期待しています。パワーも最高出力が116psから119psとアップして、より力強く、さらなる暴れ馬感を出しながら乗りやすさを両立させるという、なかなか難しいことが実現できたのではないかと。

それに今回のD-MODEはかなり頑張って味つけの幅を広げていまして、モードもひとつ増えています。サスペンションも挙動はしっかり感じられるけど、過度なピッチングによる乗りづらさを防ぐセッティングにしていますね。

----:走りの進化という点では、電子制御技術が大きな役割を担っている。

電装設計チーフの八木俊紀氏(以下敬称略):そうですね。初代からの変化でいうと、電子制御の変化はかなり大きくて。初代MT-09の頃はD-MODEのみで、ABSもついてなかったですからね。2代目からトラクションコントロールやQSS(クイック・シフト・システム)のアップ側が入り、今回の新しいMT-09では6軸IMUなど電子制御がてんこ盛りとなっています。強大なトルク感を安全に乗れる作り込みというところでも、IMUを使った制御で乗りやすくしていたり。トラクションコントロールも前回まではIMUを使ってないタイプだったのを、今回はR1にも入れるようなタイプを採用したことで、よりきめ細やかな制御が達成できたと思います。

山田:電子制御の介入の仕方がすごく自然になって、めちゃくちゃ良くなりましたよね。今回からリフトコントロールシステムがついたのですが、最もMT-09らしさを感じられるモード1で乗ると、結構リフトを許容するというか、スロットルをガバッと開ければフロントがぐわっと上がるんです。でもその上がり方も自然で、ライダーの意思に応じてる感触がちゃんとある。もちろん電子制御をオフにもできますし、制御が入ればしっかり安心して使えるので、幅広いライダーに楽しんでもらえると思います。

----:乗り手の技量を問わず、暴れ馬感を楽しめる仕上がりになっているわけですね。

八木:R1と同様のスライドコントロールを入れたり、IMUを使ったブレーキコントロールも追加していますし、上級バージョンのMT-09 SPにはクルーズコントロールも追加しています。ファンライディングに特化した部分を伸ばしながら、移動区間はクルーズコントロールでラクに走るというような実用的要素も追加したので、そういう面にもぜひ注目していただけたらと思います。

車体設計担当の田中友基氏(以下敬称略):車体も進化していますので、30km/hくらいですっと曲がるだけでもむちゃくちゃ気持ち良く曲がれるんですよ。初代から2代目にかけての変化とは比べものにならないほど、今回は走りも一気に進化したと言える作り込みができたと思います。僕自身、実際に乗ってびっくりするくらいだったので(笑)。

山田:どのくらい進化したとか、乗りやすくなったかは、本当に乗っていただければいちばん話が早いんです(笑)。なのでぜひ皆さんにも一度乗っていただきたいです。

(第2回 パワートレイン編へ続く)

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