2021年05月28日 13:10

【ヤマハ MT-09 新型】「顔がない」デザインはなぜ? カラーへのこだわりはフレームにも

フルモデルチェンジを遂げたヤマハ『MT-09』欧州仕様の開発チームが、生まれ変わった新型MT-09の開発秘話を明かすインタビュー企画第3弾。今回は完全に一新されたデザイン面の哲学や車体設計、完成に向けた作り込みについて伺った。

【インタビュー参加メンバー】

PF車両ユニット PF車両開発総括部 SV開発部 SP設計 グループプロジェクトリーダー主査の北村悠氏:ヤマハ発動機株式会社に入社後、主にASEAN向けモペットやASEANとインド向けYZF-R15、ヴィクシオンRの車体設計を担当した後、MT-09の開発プロジェクトリーダーを担当。

クリエイティブ本部 プランニングデザイン部 プランニングデザイン1グループ 主事の安田将啓氏:プランニングデザイン担当。

PF車両ユニット PF車両開発総括部 SV開発部 SP設計グループ 主事の田中友基氏:車体設計チーフ。これまで開発に携わった車両はMT-25、YZF-R25、YZF-R6、YZF-R1など。

パワートレインユニット パワートレイン開発統括部 第2PT開発部 MC設計グループ 主務の三吉伸幸氏:プロジェクトチーフ。入社後は小型エンジンの開発に携わった後、MT-09、MT-07の部品設計などを担当。

◆「機能部品の集合体」がデザインを形作る

----:今回のフルモデルチェンジでは、デザインの変化も目玉ですね。ひと目見ても現行モデルとの別物感がすごいのですが、このデザインはどのように生まれたのでしょうか。

プランニングデザイン担当の安田将啓氏(以下敬称略):基本的には「機能をデザインで表現する」というのが、ヤマハのデザインの哲学なんです。ひと言で言えば「機能美」ですね。今回のMT-09ですと、トルクアップだったり、力に関わる表現や、初代MT-09から続く超凝縮マスの塊の強さをいかに表現するかを軸に据えて、車体全体をデザインしたのが基本の考え方です。

たとえば初代から引き継いだスーパーモタードとネイキッドのハイブリッドというのは、モーターサイクルの上で自由自在に動いて乗って欲しいという考えから作ったテーマで、フラットなシートをいかに達成するかというのが開発の皆さんと一緒に詰めたポイントですね。タンクでのニーグリップのスムーズさも同様で、シートの延長面的なイメージでスムースなニーグリップエリアまでつなぎ、タンクができている。人とマシンが融合するポイントは、すべてそういう考え方でデザインをしています。

「音を考えたデザイン」も当然あって、音は波でできていて、空気が揺らぐことで出るものということから、いかに空気を取り込む様を形にするかを考えて、顔の横につけた羽やインテークのデザインをしました。

----:「顔」の話で言うと、かなり現行とはイメージが変わりました。

安田:今回のフルモデルチェンジでは、顔がいちばん特徴的だと感じた方は多いと思いますが、じつは「こういう顔をデザインしよう」と思って作ったものではないんです。確かにいまの国内仕様の現行車は、わりと2眼感を意識してデザインしたのは事実なんですけど、今回は最初にも言ったように、機能の塊としてのデザインを作りたくて、その塊がいかに強い塊として認識できるかでデザインしています。

いかに凝縮したマス感を作るかは、開発思想で言い換えると軽量・スリム・コンパクトの考え方になる。もちろんスケッチは何十枚、何百枚と書いてスタディしていますけど、それを見える形にするひとつの手段として、顔周りをいかに車体に寄せるかや、マフラーをいかにぎゅっと寄せていくかというところで、塊感を出すデザインにしました。

----:ある意味「顔がない」のが斬新だと思いました。結構、冒険だったのではないですか?

安田:冒険というか、新しいデザインの考え方ができないかというチャレンジではありました。モーターサイクルは人や動物に例えられることが多くて、ヘッドライトとかもやっぱり「顔」と呼んじゃいますよね。でもMT-09のデザイン過程では、いかにそうした顔感をなくして、機能部品の集合体として見せられるかという考え方で進めていて。もちろん、フェイスレスにすることが優先ではなく、機能部品の集合体であることが優先だったんですけど、結果として顔っぽくなくなったと思います。

◆斬新なカラーはホイールだけじゃない

----:濃いグレーに蛍光オレンジを組み合わせたり、カラーとグラフィックも斬新ですよね。

安田:2017年にグレーの車体に蛍光イエローのホイールというカラーリングをやりましたが、基本的な考え方はあの時からそれほど大きく変わりません。機能に関する部品に色をつけたり、ホイールのように回る部品に色を差したのは、ある意味コーションになるという、視認性の観点も大きかったと思いますね。

MT-09はいわゆる普通のカラーリングの考え方と逆転の発想をしていて、コンポーネントに色をつけ、ボディの塗装を極力落とし、装飾要素を省くということをしています。もともとMT-09は新しい領域を開くモデルだと思いますので、こうしたカラーリングもMT-09の個性を表現するひとつの答えになったかなと。

----:やはりこうした斬新なカラーの方向性がユーザーにも認められた、ということなのでしょうか。

安田:そうですね。市場の「過激度合い」に対する許容値も観測できていて、ヨーロッパではイエローホイールの販売比率が3〜4割くらいありますし、日本市場も同じくらいあるんですよ。なのでこのくらいのチャレンジは、MT-09に興味を持つお客様にはむしろ響くという答えが見えた中で、ある意味、自信を持って出せた色ではありますね。

それに今回はエンジンとフレームも含めたコンポーネントをもっと際立たせるという意味で、今までのヤマハとはちょっと違う色を使っているので、そこも見ていただけたらと思います。

車体設計担当の田中友基氏(以下敬称略):フレームとエンジンは、クリスタルグラファイトというヤマハとしては初めて使う新色で塗られています。パッと見は黒に見えるかもしれませんが、じつは黒に近いグレーで、コントラストが高く出るのか特徴です。実際に車両を見ていただくとわかりやすいのですが、金属の機能部品の形状とかがすごく際立って見える色なんですよ。

----:なるほど、確かにこれは写真では伝わりにくいかもしれませんが、実車を見るととても表情豊かな色ですね。

田中:そうなんですよ!今回のMT-09は、本当に実車を見てもらいながら説明したいことばかりで(笑)。たとえばさっき安田が話した顔の横の羽根なんかも、実車を見れば横にへこみがある形なのがわかります。なぜへこみがあるかというと、インテークに向かってちゃんと風が流れて吸気されていくためなんですね。そういう機能や意味が、このヘッドライト周りのカウルと羽根にはちゃんとありますし、ポジションランプのラインは「Y」の字をイメージさせる、このMT-09のアイコンにもなっているんです。

それにこのMT-09は、普段お客様が車両を見る時の目線の高さで見た時に、最もタンクとカウルのつながりが表現されて見えるようになっています。僕のおすすめは斜め後ろからのビュー。タンクが真ん中までめちゃくちゃ絞ってあるんですけど、そこから一気にぶわっと広がるこの造形を、ぜひ斜め後ろからご覧いただきたいです。右からでも左からでも、ライダーが乗った姿を斜め後ろから見ると、めちゃくちゃ格好いいんですよ。

プロジェクトリーダーの北村悠氏(以下敬称略):タンクの微妙な曲面は太ももに吸い付くような感じもありますし、スリムさとも相まって、跨っただけでも一体感を感じられると思いますね。

◆期待を裏切らないパフォーマンスを実現した

----:細部に至るまで並々ならぬ情熱が注ぎ込まれていることがわかります。

田中:この新型についてはまだまだ全然話し足りなくて(笑)。というのも、今回、車体の部品全部が変わってるんですよ。電子システムも刷新されて、エンジンも新しくなった。それを作りながら、重量を現行よりも4kg下げて、しかもお客様の手の届きやすい価格に押さえるという条件もある。我々にとってはなかなかの地獄なわけです。

それをどう達成したかというと、車体に関係する本当にたくさんの設計者が死ぬ思いで頑張って、もう数グラム、もう数円を削る努力をし続けながら、でももう少しこんな乗り味が欲しい、こうしたいという改善をやり続けて、いまここに新しいMT-09ができた。こうして話してるだけでも、関わった車体設計メンバーみんなの顔がアタマに浮かんで来るんですよ。

プロジェクトチーフの三吉伸幸氏(以下敬称略):死ぬ想いをしたのはエンジンも一緒ですね。私も話してると、脳裏にいっぱい設計者の顔が浮かんできます(笑)。

田中:そのくらい頑張って作り込んで、すごく良いものができたので、本当に皆さんには1回は乗ってみて欲しいんです。

北村:軽さは取り回しですぐわかるし、バイクとの一体感やスリムさも跨っただけでわかる。ハンドルの位置でもコンパクトさはすぐわかりますし、エンジンを始動した時のアイドリング音でも、排気音の重低音の迫力はわかります。エンジンをかけて、走り出すまでだけでも、新しいMT-09のポテンシャルは十分に感じてもらえると思いますし、そこで感じたこのバイクに対する期待感、高揚感を裏切らないパフォーマンスを、実際の走りでも実現できました。皆さまには高い期待を持って、試乗してもらえたらと思います。

----:本日は、ますます日本仕様の登場が楽しみになるお話をありがとうございました。ところで、日本での試乗はいつ頃できるのでしょうか?

北村:ですよね(笑)。そこはまだハッキリ言えませんが、そう遠くはない、とだけ。ご期待いただければと思います。

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