【ヤマハ YZF-R1M 試乗】乗れば乗るほど、その底知れなさにゾクッとする…伊丹孝裕
2015年にデビューし、これまで鈴鹿8耐を4度、全日本ロードレース選手権を6度、そして2021年にはついにスーパーバイク世界選手権を制した最速のリッタースーパースポーツがヤマハの『YZF-R1』だ。
これまでは逆輸入モデルしか流通していなかったわけだが(2009〜2014年の旧型には国内仕様が存在)、2020年に施されたマイナーチェンジを機に国内仕様がラインナップされることになった。しかも馬力規制から解放され、欧米仕様と同等の、いわゆるフルパワーを楽しめるようになったことがトピックだ。
自主規制と法規制が複雑に絡み合っていた二輪界も徐々に変化し、国や地域によってまちまちだった規制の統一化が図られてきた。結果、いびつなほどデチューンされた国内仕様を設定しなくて済むようになったのである。
この数年の間に大型自動二輪の免許を取得したライダーはピンとこないかもしれないが、たとえばホンダから送り出されたリアルモトGPマシンレプリカ『RC213V-S』は、215ps以上(キットパーツ装着時)のパワーを誇ったにもかかわらず、国内仕様のそれはわずか70psに押さえつけられ、使える回転数も半分以下だった。2190万円もしたのに。これは遥か昔の思い出話をしているのではなく、2015年の時点でそうだった。
このあたりの事情を掘り下げていくと、本筋からどんどん離れてしまうので、YZF-R1の話に戻そう。
真冬の気温下でも汗がにじむ加速とブレーキング
先頃、『YZF-R7』の試乗会が開催された袖ヶ浦フォレストレースウェイ(千葉県)には、YZF-R1と上位グレードの「R1M」も用意され、このRシリーズの本気(の一部)を体感することができた。
現行モデルで改良された箇所は、シリンダーヘッドやバルブ、クランクジャーナルといったエンジンパーツ、サスペンションのリセッティング、ブレーキパッド、電子制御システムの追加(エンジンブレーキマネジメント/ブレーキコントロール)など、多岐に渡る。試乗にあたっては、電子制御サスペンションとドライカーボンの外装を備えるR1Mを選択した。
車体には姿勢変化(ヨー/ピッチ/ロール)と、その加速度を検知するIMUが搭載されている。その情報にトラクションコントロールやスライドコントロール、リフトコントロール、減衰力が連動してスタビリティが確保されているものの、それらをフル活用してもパワーウェイトレシオ1.01kg/ps(最高出力200ps・車重202kg)がもたらす加速力はやはり普通ではない。
パイロンで制限された特設コースにもかかわらず、ストレートでは220km/h近くに達し、それでも余程意識していないとスロットルを全開にしているようで実はできていなかったりする。ブレーキングでは加速時以上の緊張感と筋力を求められ、真冬の気温下でも汗がにじんでくるほどだ。
乗れば乗るほど、その底知れなさにゾクッとさせられる
R1/R1Mには、997ccの直列4気筒エンジンが搭載されている。このエンジンの特徴はクロスプレーン型のクランクシャフトを採用し、その位相によって270度−180度−90度−180度の不等間隔爆発を実現しているところだ。ホンダ、カワサキ、スズキ、BMWといった直4エンジンのライバルメーカーが、例外なく等間隔爆発(180度)のシングルプレーンなのに対し、ヤマハは一線を画している。
そのフィーリングをひと言で表現すると、まろやかだ。滑らかなで小刻みな鼓動感が延々と続き、低回転域から高回転域までそれが一貫している。ともすれば、パワーが足りないようにさえ感じられるほどだが、もちろんそれは誤解だ。スピードメーターの数字と迫りくるコーナーの勢いに現実を思い知らされ、ハッとして減速。神経と体力を消耗していく。
その点、等間隔爆発はわかりやすい。回せば回した分だけ加速Gも音もバイブレーションも盛大に盛り上がり、いかにも爆発している、いかにもパワーが出ている様が明快で、「これ以上はヤバい」という自制心につながるからだ。
一方、R1Mのエンジンは油断を誘う。ヘアピンやタイトコーナーでこそ、スロットルのわずかな動きにも敏感に反応。それによって注意を促してくるが、中速コーナー以上ではつい開けられそうな気がするからだ。いつの間にかとてつもない領域に足を踏み込むことになり、乗れば乗るほど、その底知れなさにゾクッとさせられる。
街中やワインディングで走らせることはもちろん可能ながら、ライディングポジションも含めてどのスーパースポーツよりも本質的にはサーキット向き、玄人向きに仕立てられている。
トラックを極めるための「EBM」
それが垣間見えるのが、新しく採用されたEBM(エンジンブレーキマネジメント)だ。これはエンジンブレーキの強さを3段階に設定できるデバイスで、プリセットから弱める方向にしか機能しない。なんのためにそうしているのかと言えば、スリックタイヤの装着を見越しているからだ。
スリックタイヤでサーキット走行をこなすということは、必然的にハードブレーキングを多用することになる。そうしたシチュエーションではエンジンブレーキが邪魔になるため、だったらそれを抑えればいい、という理屈だ。この部分ひとつとっても、ラップタイムありきの出自が伺え、コンセプトの「Full control evolution of track master」(トラックを極める)に忠実なことがわかる。
ハンドリングはどんな局面でも軽やかだ。前後タイヤの接地感が常に均等に感じられ、流れるようにスッとフルバンクに持ち込める。コーナーの奥まで突っ込んだ後、パワーに頼ってV字に立ち上がるのではなく、大きな弧を描きながら旋回スピードを高めていく。そんなライン取りを意識した時に1ラップがきれいに繋がるイメージだ。バイクの醍醐味はほとんどコーナリングに集約されていると言ってもいいが、それを最大限楽しめるセットアップが与えられている。
楽ではない、だからこそ長く付き合える奥深さがある
繰り返すが、R1/R1Mの振る舞いは一見優しそうな気がするだけで、決して楽に操れるわけではない。しかしだからこそ、長く付き合える奥深さがある。パーツの上質さは同じカテゴリーのモデルの中でも群を抜き、価格に見合うだけの価値もある。
ヤマハならではの独自のエンジン、ヤマハらしい伝統のハンドリング、ヤマハだからこその流麗なデザイン。それらがすべて詰まったフラッグシップが、このYZF-R1Mである。
■5つ星評価
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
コンフォート:★★
足着き:★★
オススメ度:★★★★
伊丹孝裕|モーターサイクルジャーナリスト
1971年京都生まれ。1998年にネコ・パブリッシングへ入社。2005年、同社発刊の2輪専門誌『クラブマン』の編集長に就任し、2007年に退社。以後、フリーランスのライターとして、2輪と4輪媒体を中心に執筆を行っている。レーシングライダーとしても活動し、これまでマン島TTやパイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライム、鈴鹿8時間耐久ロードレースといった国内外のレースに参戦。サーキット走行会や試乗会ではインストラクターも務めている。
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