【ヤマハ XSR900 試乗】ヤマハらしいハンドリングに、懐かしさを覚える…伊丹孝裕
ヤマハらしいハンドリングが、少し懐かしい
ヤマハの新型ネイキッド『XSR900』を借り出して、房総半島に向かった。まずは海をバックに走れる定番コーナーに到着。カメラマンがスタンバイしている位置を確認し、幾度か往復を繰り返す。撮影のルーティンである。
途中、カメラマンがファインダーを覗くのを止め、停車をうながす。その指示に従うと、カメラのモニターを見せながら「もう少しセンター寄りのラインを通れます?」と言う。確かにそうだ。そこは曲率の大きな上りの左高速コーナーなのだが、普通の感覚で車体をリーンさせると、思いのほか早いタイミングで車体の鼻先がインに向き始める。結果、車線の真ん中あたりをトレースしているつもりが、つい内側に寄せ過ぎてしまうのだ。
バンク角が浅くとも、荷重を意識しなくとも、スロットルを軽く開けた状態をキープしているとリアタイヤの蹴り出しが明確で、車体後部からグイグイと曲がる感覚が伝わってくる。ヤマハらしいハンドリングが強調され、これだけで少し懐かしい気分を味わえる。
一方、コーナーが下っていたり、曲率がタイトだったりすると様子が少々変わる。フロントタイヤの仕事量が俄然増え、一転して現代的なハンドリングを示す。ただし、操作に無頓着でいるとラインは車体一台分くらいアウト側をトレースし、リアタイヤがイメージよりも後方にあるように感じられる。コンパクトに曲がろうとするのなら、サスペンションとブレーキをしっかりと使い、荷重を逃がさないようにすることが大切だ。
もっとも、これはそれほどシビアな領域の話ではない。ワインディングの上りではリアタイヤのトラクションを、下りではフロントタイヤの使い方を教えてくれるハンドリングに仕立てられていて、速度域が低くとも、それを体感することができる。スーパースポーツであれこれチャレンジしようとすると、非日常的な高荷重&ハイスピードが求められるが、XSR900ならそのハードルがグッと低く、乗り手の工夫をおおらかに受け留めてくれる。
一定の年齢層には「ドンピシャ」の訴求力
XSR900の運動性能は、俊敏というよりも穏やかだ。ベースになったモデルは『MT-09』であり、その資質をそっくり受け継いでいるなら、ハンドリングは本来、やんちゃな部類に属するはず。しかしながら、その素性はほとんど表に出てこない。
大きな要因は、MT-09に対してホイールベースが65mm延長されている点にある。同じくMT-09をベースに持つ『トレーサー9 GT』のスイングアームが流用され、スタビリティ重視のディメンションになっている他、シート高も低下。この種のモデルとしては、見た目もロー&ロングなシルエットだ。
以前、開発者インタビューを行った際、プロジェクトリーダーの大石貴之さんからターゲットユーザーを聞いた。その内容は、「主に40〜50代のベテランを想定しています。中高速コーナーが続くワインディングをキビキビというよりも軽やかに流すシーンをイメージし、スムーズなラインが描けるハンドリングに注力しました」というもので、実際のフィーリングとピタリと一致。PVには、クリスチャン・サロン(80年代中心に活躍したフランス人GPライダー)と、彼のイメージカラーとも言えるソノートブルーのXSR900が起用されていることも含め、一定の年齢層にはドンピシャの訴求力がある。他でもなく、僕自身(伊丹孝裕)もまさにど真ん中世代だ。
この9月にリリースが始まる、ホンダ『ホーク11』も同様のマーケットを狙う。かつてのレーサーレプリカ世代が年齢を重ね、ワインディングでひと時のスポーツライディングを楽しむ週末カフェレーサーとして、両モデルが相まみえることになるから楽しみだ。
ベテランのみならず、誰もが選択肢に入れる価値がある
ライダーのスキルをフォローする電子デバイスは、XSR900がの方が充実している。6軸IMUを搭載し、トラクションコントロール/リフトコントロール/スライドコントロール/ブレーキコントロールと連動。クイックシフターはアップとダウンの両方向に機能する他、クルーズコントロールも標準装備するなど、おもてなしが行き渡る。
888ccの水冷直列3気筒エンジンは、リニアという表現の手本となる仕上がりだ。回転域を選ぶことなく、スロットル開度に対して間髪入れずに反応。トルクを意のままに引き出し、それがトラクションへ変換される様が実に分かりやすい。出力特性が変化するライディングモード(D-MODE)には、1〜4までの4段階が設定され、最もスポーティな「1」を選択してもコントローラブルさが失われることはない。120PSの最高出力は、一般的なライダーが扱えるかどうかのギリギリの境界にあり、もしも手に余るようなら「4」に切り換えると、パワーをカットしてくれる。
サスペンションはバネレート、減衰力ともにMT-09よりも少し固められているようだが、車体とのマッチングはむしろ良い。後退したシッティングポイントと、フロントに荷重を掛けやすいハンドルポジションのおかげでサスペンションをストロークさせやすく、頑強なメインフレームとのバランスが好印象だ。
特筆すべきは、ヤマハのスポーツバイクとしては、例外的に足つき性がいい点だ。そのため、日常的にはストリートで楽しみ、週末は郊外のワインディングでスポーツを満喫。高速道路ではクルーズコントロールで快適性に身を委ねられる懐の広さを持つ。その意味で、XSR900はピンポイントなニーズを装いながら、かなりオールラウンドなモデルである。80年代は、尖っているように見えてレンジの広いモデルが多かった。その意味でも懐かしい。
121万円に設定された車体価格は、そこに盛り込まれた機能と専用パーツの多さを踏まえるとリーズナブルと言っていい。ベテランのみならず、誰もが選択肢に入れる価値のある、良質なスポーツバイクである。
■5つ星評価
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
コンフォート:★★★★
足着き:★★★★★
オススメ度:★★★★
伊丹孝裕|モーターサイクルジャーナリスト
1971年京都生まれ。1998年にネコ・パブリッシングへ入社。2005年、同社発刊の2輪専門誌『クラブマン』の編集長に就任し、2007年に退社。以後、フリーランスのライターとして、2輪と4輪媒体を中心に執筆を行っている。レーシングライダーとしても活動し、これまでマン島TTやパイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライム、鈴鹿8時間耐久ロードレースといった国内外のレースに参戦。サーキット走行会や試乗会ではインストラクターも務めている。
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